【後編】東洋思想に根ざしたマネジメント観とは? 大室氏・藤本氏と探索する「“あいだ”の経営と内臓感覚」

レポート【前編】に続き、この【後編】では2019年12月に開催されたEcological Memes Forum 〜あいだの回復〜 の第一セッション『“あいだ”の経営と体感ワーク』の後半に行われた身体ワークと登壇者ダイアローグの内容をお伝えする。

ワークのナビゲーターは、環境神経学研究所代表、上智大学や筑波大学大学院でも神経生理学やボディワークを教える藤本靖氏。教育や医療機関、民間企業など幅広い分野でワークショップを行い、ベストセラーの『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本』など著書も多数出している。

そんな心身の健康の専門家が長年の研究・実践から見出した知見をもとに、カラダ、特に内臓に意識を向けることがどのように今の時代のマネジメントと結びついているのか、“あはひ”と“ゴッドハンド”というキーワードと共に探索していこう。


藤本 靖(ふじもと やすし)氏


身体の“あはひ”への意識によって感じられる内臓感覚とは?

藤本氏はもともと大学で途上国の開発について学んでいた。卒業後、政府系の援助機関に勤務しアジア、アフリカ各国をまわる。そのなかでも最も長期間滞在したフィリピンで感じることがあった。

それは、フィリピンの人々の生命力の強さ。その源は身体の強さにあると感じた。それに比べ、日本人の身体は生命力が弱っていると感じた。

途上国援助の前にまずは日本人の身体をなんとかする必要があると感じた藤本氏は東大の大学院に戻り、自律神経の研究に没頭する。その後、研究成果を活かすためボディワークの実践家となる。現在は大学や企業といった様々な場で講演やボディワークを行う身体のスペシャリストだ。

その藤本氏が実践しているコンセプトが、身体の“間(あはひ)“というもの。実際に行ったボディワークを通して説明していこう。



姿勢を意識する際、よく聞く「丹田」という言葉。「丹田を意識する」というと多くの人は下腹部の表面の一点を意識してそこからずれないようにやや前のめり気味に姿勢を固める。これでは自然で楽な姿勢にはならない。

そこで、丹田をお腹と背中の間にある身体重心と考えてみる。身体重心はお腹と背中の間で時々刻々と変化し続ける。ただし、お腹と背中の間(あはひ)にあることを意識しておくことが重要である。

二人一組になり行ったペアワークでは、パートナーが片手を下腹部、もう片方の手を後背部に添えて、坐っている人がお腹と背中の間に意識を向けやすくなるようにサポートする。そのまま目を閉じて、前後の手の間に自分の中心があると感じていると、小さなゆらぎを持ちながら身体は自然にまっすぐ立ち上がっていく。このとき内臓感覚が生まれて、呼吸はゆったりとする。

ある一点を定めてそこを中心とするのではなく、中心点に幅を持たせて身体の流動性を引き出すことで自然に中心に導かれている方法が“間(あはひ)のアプローチ”なのだという。

ちなみにこのワークは一人でも実践可能で、その場合は背に添える手は甲の部分を使うと良い。自分が普段考えている良い姿勢が、実は本来の自然で楽な姿勢とは全く違っていることに気づかされたという参加者が多く、新鮮な体験となったようだ。



ゴッドハンドの秘密は相手に介入しない「バランス法」にある

大学院で身体についての研究を深めた藤本氏が手技療法(手で触れて身体を調整する方法の総称)に魅了を感じたのは、理論で学んだことの答えがすぐ目の前で実証されることにあった。手技療法には大きく分けて3つの方法論があるという。

一つ目が直接法と呼ばれるもの。身体の問題のある部分に直接働きかけて治す手法で、その典型がマッサージだ。ただ、直接法で部分的に働きかけてそこを治したとしても、全体のバランスの中で根本的な原因が改善していないとまたすぐに戻ってしまう。マッサージを受けてほぐれても、またすぐに元の肩こりになってしまうのはそれが原因である。

直接法の逆の発想が間接法と呼ばれるもの。これは、身体が歪んでいる場合、その歪みをより強調するような方向づけをすることで、筋肉の反射を引き出して結果としてバランスを整えるという手法。


二つ目のワークは、基本的にパートナーの肩にそっと手を置くだけ


三つ目が、バランス法と呼ばれる手法。筋肉には「緊張しすぎていたら自然にゆるみ、ゆるみすぎていたら適切な張りを取り戻す」という自己調整力がある。自己調整力を引き出すには筋肉がいまどのような状態にあるかに気づくことが重要。気づきを促すためには触れるか触れないかぐらいの繊細なタッチが有効。これがいわゆるゴッドハンドの秘密である。

バランス法の繊細なタッチには施術者のプレゼンスのあり方が重要。自分(施術者)と相手(クライアント)の身体の中で起こっていることを同時に感じとるには、自分でもなく、相手でもなく、その間(あはひ)を感じとることが大事である。あはひを感じることで、知覚の反転がおこり、自分と相手の全体像がみえることになるのだ。


知覚の反転(藤本氏のスライドより)


自己の内的感覚と東洋的“あいだ”に意識を向けた次世代のマネジメント

このセッションの最後には、Ecological Memes発起人の小林がモデレーターを務め、両登壇者によるダイアローグが行われた。

小林泰紘氏


ここで藤本氏が強調したのが、知覚を通して外の世界からの情報を受け取る外受容感覚と、身体の内部的な状態を感じ取る内受容感覚のバランスである。五感と内臓感覚が脳内で統合されることで、初めて人としての主観的な感覚の意識、自己意識が生まれるという。

こういった自己意識の確立や介入しない身体療法とこれからの時代の経営の間にはどのような関係性があるのか。小林が大室氏に質問を投げかける。

「共有しないことが大事なのです」と大室氏。ビジョンやミッションといった組織の方向性は指し示すが、そこにたどり着くための道を共有しないようにすることで、自ら道を切り拓くしかなくなり、ひとりひとりが深い内省のもと自己を確立する必要が出てくる。そこで必要になるのが、まさに藤本氏のいう身体感覚に基づく自己意識なのだという。


GRAPHIC RECORDING BY MOMOKO MATSUURA


経営、そして、内臓感覚。

自身の考え方そのものを多角化し、体の内側から得られる自己意識を育むことで革新的なイノベーションを生み出すという「あいだの経営」。そこには、目まぐるしく変化する「外の世界」に順応するため「内の世界」を養うという切り口のもと、これまで重なり合うことの少なかった領域の有機的なつながりがある。

実際、経営やリーダーシップの文脈で「内の世界」に着目することは新たな当たり前となりつつもある。世界では、リーダーのための内省合宿や心の奥底に眠る妄想を引き出す研修プログラムなど、自我を掘り、問いかけ、磨いていく動きが主流となっていく兆しが見えている。近年の瞑想やマインドフルネスの人気も、人が一人の人間としてのセルフ・アウェアネスを意識するようになった証拠だろう。

そんな大きな潮流のなかで、これまで同じテーブルで議論されることのなかった「経営」と「内臓感覚」という領域が結びつき始めているのである。

経営者の方もそうでない方も、今度一度友人を誘っ


てペアをつくり、ボディワークを通じて“あはひ”の感覚にカラダを委ねてみてはいかがだろうか。

TEXT BY SHUHEI TASHIRO PHOTOS BY KEITA FURUSAWA & KANA HASEBE

田代 周平 Shuhei Tashiro

ユトレヒト大学卒、人類学・哲学(リベラルアーツ)。戦略コンサルティング The Young Consultant にてプロジェクトマネージャーを務めた後、WWOOFを通してパーマカルチャー・自給自足について学ぶ。国際NGOでの通訳の仕事を経て、現在は株式会社BIOTOPEにて Ecological Memes の企画・発信に携わる。ユース海洋イニシアチブ Sustainable Ocean Alliance Japan 旗振り役。趣味として自給自足型ライフスタイルの探究・実践を行なっている。



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