もしも人類が水中で暮らせたら?自然と技術を融合するバイオミミクリの世界に迫る



エコロジーや生態系を切り口に領域横断型でこれからの時代の人間観を探るトークイベントシリーズEcological Memesの第二弾が6月24日に二子玉川のCatalyst baで行われた。


今回のテーマは自然と技術を融合するバイオミミクリ(生物模倣)だ。ゲストはバイオミミクリデザイナーであり、素材工学の研究者である亀井潤氏。



亀井氏は現在ロンドン在住のデザイナーで、Royal College of ArtとImperial College卒業。Amphibio Ltdという海洋に関するイノベーション研究をしている会社の代表をしている。デザイナーとしてコンピューテーショナルデザイン、コンセプトデザイン、マテリアルエンジニアリング、応用化学と幅広い分野に携わっているが、ベースにしているのはバイオミミティクスというエンジニアリングの領域。


バイオミミティクスとは、自然界からインスピレーションを受けて生み出されるテクノロジーで、主に自然や他の生き物が持つ構造やシステムを応用し、人工的なツールや素材、システム等の開発を行っている。


例えば、日本の新幹線。新幹線のヘッドの形状はカワセミのくちばしの形状からデザインのヒントを得ている。このデザインを擬態する事で、新幹線はトンネルに入るときの空気抵抗を抑え、音を抑制する事ができる。



震災をきっかけに、自然との向き合い方を変えなければならないと感じた


亀井氏がバイオミミクリの世界に足を踏み込むきっかけとなった原体験は東日本大震災だという。


人類が長い間かけて積み重ねてきた技術の結晶とも言えるまちが津波によって一瞬で全て流されてしまうことの恐怖を感じた。そこで、自然との向き合い方を変えていかなければと考えていった結果、自然災害を防ぐことではなく、変化に適応していくためのモノを作ることの必要性がある事を感じたという。



2100年までに都市の一部が沈むかもしれない


ある報告によれば2100年までに地球の温度は2℃以上あがることを防ぐことはもう難しく、最高4℃まで上昇する可能性があるとも言われている。地球の温度があと2度上昇したら、例えばロンドンのビックベンの一階部分が浸水してしまうかもしれないという科学者もおり、この現象は地球規模で起こる事であろうと予想されている。



プロジェクトのインスピレーションのベンチマークとして、実際に水上に住んでいる人の実例をリサーチした。


例えばインドネシアのバジャウ族。水上で生活をする海の遊牧民だ。彼らはいつも水上で生活をしているため、寝ている間揺れていることが当たり前。むしろ硬い陸地では”揺れない“ので眠れないのだという。いかに自分にとっての当たり前が既存環境の枠の中での常識に過ぎないのかを気付かされる事例だ。


そして、バジャウ族は水中で3分以上活動したりするなどの驚異的な身体能力を持っているのだという。これは、潜水することが生活の一部となっているため脾臓が通常の人よりも大きいという遺伝的な身体進化によるものだそうだ。



もしも人類が水中で暮らせたら?という逆転の発想


こうした模索の中で生まれたのが、亀井氏の代表作であるAmphibioという作品だ。


都市が水没する未来に、人類が水中で暮らせたら。


地球温暖化による海面が上昇する未来に向けてそんな問いかけを投げかけ、ビジョンをビジョンを具現化することを目的としたプロジェクトで、水生昆虫の呼吸法を応用した人工エラを開発している。


素材の研究者でもある亀井氏は、ビジョンだけでなく、人間の皮膚から酸素を取り込めるような具体的な素材やより酸素を取り込めるデザインプロダクトの開発に尽力している。




最後に、亀井氏はバイオミミクリを行っていく上での自身の着想の仕方を紹介した。

それは、


If…, What Does It Mean For…


というもので、もしも〜だったら、◯◯にとってどのような意味を持つだろうかという問いかけフォーマットだ。


サイエンスフィクションにならないように、IFのあとには割と確度が高く、かつインパクトの大きい事象を入れるのがコツだという。それを中心に据えたら、網目のように思考を広げていく。


その際に、SOCIETY・TECHNOLOGY・ECONOMY・CULTUREという4つの視点から深掘りすることを意識し、その上で、様々な生物の知恵から活用しうるヒントがないかAsk natureなどの情報ソースにあたり探探していくのだという。


様々な生物の生存戦略や生きる姿をつぶさにみていくことは、人間の当たり前の枠からの解放でもあると亀井氏は言う。


人間が数年考えたことよりも、自然が何万年もかけて生み出してきたことから学ぶ事がたくさんあると締めくくった。



バイオミミクリは「人間社会への還元」から「持続可能な関係性デザイン」へ


トーク後のダイアローグでは、発起人の小林から、コペンハーゲンで行われたRegenerative Leadershipという自然の叡智をベースにしたリーダーシッププログラムの内容もシェアされた。


もともと自然から着想を得て人間社会にどのように活かしていくかというものであったバイオミミクリーが、次第に、地球環境や自然とのより持続可能な関係性をもたらすものとして新たな意義を持つフェーズに入ってきているのではないかという。


個体の機能や素材性だけでなく、群れや関係性など見えないものも含めて自然界から着想していくバイオミミクリー。一方、生物の進化や生態系というシステム全体を扱う場合には、バイオミミクリーだけでなく、人工生命や次回のテーマでもある複雑系などの領域が重要になることもみえてきた。

GRAPHIC RECORDING BY MOMOKO MATSUURA / BIOTOPE


変化を食い止めるのではなく、適応していくという態度


亀井氏の作品の凄さは、生物模倣による機能性もさながら、水位が上がった世界において、人類が水中で暮らせたらというそもそもの着想と問いの提起自体にあると感じた。スペキュらティブデザイン的な要素を持ちあわせている。


17世紀の科学革命以降、人は自然を制御し、支配する対象として扱ってきた。だが、そうではなく、自然とともに変化し続けることを前提に受容し適応していく姿勢こそが、これからの時代に求められるバイオミミクリ的な態度なのかもしれない。


そしてそれは、なんでクラゲはこんな浮いてるの?魚は互いにぶつからないの?葉っぱはこんなカタチなの?といった、普段何気なく通り過ぎてしまうことに、面白さや疑問を見出す子供のような好奇心こそがスタート地点なのだろう。


バイオミミクリの世界にご興味持たれた方は、亀井さんオススメの情報ソース「Ask Nature」がかなり面白いのでぜひ。



小林 泰紘 Yasuhiro Kobayashi

世界26ヶ国を旅した後、HUB Tokyoにて社会的事業を仕掛ける起業家支援に従事。その後、人間中心デザインを専門に幅広い業界での事業開発や顧客体験(UX)デザインを手掛けた。現在は共創型戦略デザインファームBIOTOPEにて、企業のミッション・ビジョンづくりやその実装を支援。自律性・創造性を引き出した変革支援・事業創造を得意とし、個人の思いや生きる感覚を起点に、次の未来を生み出すための変革を仕掛けていくカタリスト/共創ファシリテーターとして活動。座右の銘は行雲流水。趣味が高じて通訳案内士や漢方・薬膳の資格を持つ。イントラプレナー会議主宰。エコロジーを起点に新たな時代の人間観を探る領域横断型サロン Ecological Memes発起人。



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